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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
四
「ええ、今年の暑さは別でしたよ」
「彼地もお暑かったんですよ」
こんな言葉を親しげに交換しながら、お雪は家の内を可懐しそうに眺め廻した。彼女は、左の手の薬指に、細い、新しい指輪なども嵌めていた。
そのうちにお雪は旅で汚れた白足袋を脱いだ。彼女は台所の方へ見廻りに行って、自分が主に成って働き始めた。
お俊が叔父や叔母に礼を述べて、自分の家をさして帰って行ったのは、それから二三日過ぎてのことであった。「すっかり私は叔父さんの裏面を見ちゃってよ――三吉叔父さんという人はよく解ってよ」こう骨を刳るような姪の眼の光を、三吉は忘れることが出来なかった。それを思う度に、人知れず彼は冷い汗を流した。彼は、最早以前のように、苦痛なしに自分を考えられない人であった。同時に、他をも考えられなく成って来た。家の生活で結び付けられた人々の、微妙な、陰影の多い、言うに言われぬ深い関係――そういうものが重苦しく彼の胸を圧して来た――叔父姪、従兄妹同志、義理ある姉と弟、義理ある兄と妹……
四
三吉が家の横手にある養鶏所の側から、雑木林の間を通り抜けたところに、草地がある。緩慢な傾斜は浅い谷の方へ落ちて、草地を岡の上のように見せている。