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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
自分は冬じゅうこの死んでいるか生きているかもわからない虫の外殻の鈴成りになっているのをながめて暮らして来た。そして自分自身の生活がなんだかこの虫のによく似ているような気のする時もあった。
春がやって来た。今まで灰色や土色をしていたあらゆる落葉樹のこずえにはいつとなしにぽうっと赤みがさして来た。鼻のさきの例の楓の小枝の先端も一つ一つふくらみを帯びて来て、それがちょうどガーネットのような光沢をして輝き始めた。私はそれがやがて若葉になる時の事を考えているうちに、それまでにこの簔虫を駆除しておく必要を感じて来た。
たぶんだめだろうとは思ったが、試みに物干し竿の長いのを持って来て、たたき落とし、はね落とそうとした。しかしやっぱり無効であった。はねるたびにあの紡錘形の袋はプロペラーのように空中に輪をかいて回転するだけであった。悪くすると小枝を折り若芽を傷つけるばかりである。今度は小さな鋏を出して来て竿の先に縛りつけた。それは数年前に流行した十幾とおりの使い方のあるという西洋鋏である。自分は今その十幾種のほかのもう一つの使い方をしようというのであった。鋏の発明者も、よもやこれが簔虫を取るために使われようとは思わなかったろう。