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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

そしてその物から来る光の波長が一ミリの二千分の一ないし三千分の一ぐらいの範囲内にあるのでなければもはや網膜に光の感じを起こさせる事ができない。波長がこの範囲にあってもその運ぶエネルギーが一定の限度以上でなければ感じる事ができない。なおやっかいな事にはいわゆる光学的錯覚というものがある。周囲の状況で直線が曲がって見えたり、色が違って見えたりする。もう一つ立ち入って考えれば甲の感じる赤色と乙の感じる赤色とはどれだけ一致しているものか不確かである。

音についても同様な限界がある、振動数二三十以下あるいは一二万以上の音波はもはや音として聞く事はできぬ。振幅が一定の限度以下でも同様である。また振動数の少しぐらい違った音の高低の区別は到底わからぬものである。

触感によって温度や重量の判断をする場合にもいっそう不確かなものである。冷熱の感覚はその当人の状態にもよりまた温度以外にその物体の伝導度によるのである。寒暖計の示度によらないで冷温を言う場合にはその人によってまるでちがった判定を下す事になる。これでは普遍的の事実というものは成り立たぬ。また甲乙二物体の温度の差でも触覚で区別できる差は寒暖計で区別できる差よりははるかに大きい。