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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

て来るのが、なんだか「運命」の迫って来る恐ろしさと同じように、何かしら避くべからざるものの前兆として自分の心に不思議な気味のわるい影を投げるのか、考えてもやっぱりわからない。

これとはなんの関係もない事だが、自分の病気の経過を考えてみるとなんだか似よった点がないでもない。気味のわるい、不安な、しかし不確かな前兆が長くつづいている間にだんだんに何物かが近よって来る。それが突然破裂すると危険はもう身に迫っている。しかし危険が現実になればもう少しも気味のわるい恐ろしさはない。

病院の蒸気ストーブは数時間たつとだんだんに冷えて来る。冷えきったころにはまた前のような音がして再び送られて来る蒸気で暖められる。しかし昼間は、あの遠い所でする妙な音はいろいろな周囲の雑音に消されてしまうのか、ただすぐ自分の室のすみでガチャンガチャンと鳴るきわめて平凡で騒々しい、いくらか滑稽味さえ帯びた音だけが聞こえる。夜明け前の寂寞を破るあの不思議な音と同じものだとはどうしても思われない。

自分の病気と蒸気ストーブはなんの関係もないが、しかし自分の病気もなんだか同じような順序で前兆、破裂、静穏とこの三つの相を週期的に繰り返しているような気がする。