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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
それにしてはあまりに貧弱な露店のような台ではあるが、しかし熱海の間歇泉から噴出する熱湯は方尺にも足りない穴から一昼夜わずかに二回しかも毎回数十分出るだけであれだけの温泉宿の湯槽を満たしている事を考えればこれも不思議ではないかもしれない。ここから流れ出すものがたくさんな樋に分流しそれにいろいろの井戸から出る水を混じて書物になり雑誌になって提供される。温度の下がらないうちにと忙しい人の手で忙しく書かれた著書や論文が忙しい読者によって電車の中や床屋の腰かけで読まれる。それで二三か月も勉強すればだれでもラッセルとかマルクスとかいう人の名前ぐらいは覚える事ができるのだろう。
街路に向かった窓の内側にさびしい路次のようになって哲学や宗教や心理に関する書棚が並んでいる。
不思議な事に自分は毎年寒い時候が来ると哲学や心理がかった書物が読みたくなる。いったい自分の病弱な肉体には気候の変化が著しく影響する。それで冬が来るとからだは全くいじけてしまって活動の力が減退する代わりに頭のほうはかえってさえて来て、心がとかくに内側へ向きたがる、そのせいかもしれない。こんな気分の時にはここの書棚を物色する事がしばしばある。