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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
きのう汽車の窓から見ておいた浦和付近の森と丘との間を歩いてみようと思ったのである。きのう出る時にはほとんどなんのあてもなしであったのが、ただ一度の往復で途中へ数えきれないほどの目当てができてしまった。自分らの研究の仕事でもよく似た事がある。ただ空で考えるだけでは題目はなかなか出て来ないが、何か一つつつき始めるとその途中に無数の目当てができすぎて困るくらいである。そういう事でも、興味があるからやるというよりは、やるから興味ができる場合がどうも多いようである。
きょうは日曜で汽車は不合理な不正当な満員であった。ほとんど身動きもできないほどで、出る時に出られるかどうかと思うくらいであった。網棚に絵の具箱をのせる空所もなかったのでベンチにのせかけて持っているうちに、誤って取り落とすと隣に立っていた老人の足に当たった。老人はちょっとおこったような顔を見せたが、驚いてあやまったらすぐに心が解けたようである。私はこんな時にいつでも思う事がある。自分はなぜ平気ですましていて、もし面と向かっておこられたら、そんな所に足をもって来ているやつがあるか気をつけろとどなりつけるだけの勇気がないのだろう。