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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
ハース氏が安い部屋をとかけ合ってくれて、No.65 という三階の部屋へはいる。あまり愉快な部屋ではない。窓から見おろすとそこは中庭で、井戸をのぞくような気がする。下水のそばにきたない木戸があって、それに葡萄らしいものがからんでいる。犬が一匹うろうろしている。片すみには繩を張って、つぎはぎのせんたく物が干してある。表の町のほうでギターにあわせて歌っている声もこの井戸の底から聞こえて来た。遠くの空のほうからは寺院の鐘の旋律も聞こえていた。夕食には自分らのほかにはたいして客もなかった。デセールの干し葡萄や干し無花果やみかんなどを、本場だからたくさん食えと言ってハース氏がすすめた。「エンリョはいりません」など取っておきの日本語を出したりした。
夜久しぶりで動かない陸上の寝室で寝ようとすると、窓の外の例の中庭の底のほうから男女のののしり合う声が聞こえて来て、それが妙に気になって寝つかれなかった。ことに女の甲高なヒステリックな声が中庭の四方の壁に響けて鳴っていた。夫婦げんかでもしているのか、それとも狂人だかわからなかった。
五月四日
朝八時四十分に立つハース氏を見送って停車場まで行った。