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えいがじだい
寺田寅彦随筆集 第二巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第二巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:映画時代、子猫、解かれた象、相対性原理側面観、怪異考、比較言語学における統計的研究法の可能性について、化け物の進化、ルクレチウスと科学、蓄音機、亮の追憶、一つの思考実験、電車の混雑について、浮世絵の曲線、二十四年前、伊吹山の句について、池、路傍の草、備忘録、日本楽器の名称、Liber Studiorum、時事雑感。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 207,099 字 · 419 页
二十四年前
ちょうど今から二十四年前の夏休みに、ただ一度ケーベルさんに会って話をした記憶がある。ほんとうに夢のような記憶である。
それは私が大学の一年から二年に移るときの夏休みであった。その年の春から私は西片町に小さな家を借りてそこに自分の家庭というものを作った。それでいつもはきまって帰省する暑中休暇をその年はじめてどこへも行かずにずっと東京で暮らす事になった。長い休暇の所在なさを紛らす一つの仕事として私はヴァイオリンのひとり稽古をやっていた。その以前から持ってはいたが下宿住まいではとかく都合のよくないためにほとんど手に触れずにしまい込んであったのを取り出して鳴らしていたのである。もっともだれに教わるのでもなく全くの独習で、ただ教則本のようなものを相手にして、ともかくも音を出すまねをしていたに過ぎなかった。適当な教師があれば教わりたかったが、そういう方面に少しの縁故ももたなかったし、またあったにしてもめったな人からは教わりたくもなかった。それでやっぱりいろんな書物にかいてあるひき方を読んでは、ひとりでくふうしながら稽古していた。いつまでもろくな音は出なかったが、それでもそうする事自身に人知れぬ興味はあった。