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えいがじだい
寺田寅彦随筆集 第二巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第二巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:映画時代、子猫、解かれた象、相対性原理側面観、怪異考、比較言語学における統計的研究法の可能性について、化け物の進化、ルクレチウスと科学、蓄音機、亮の追憶、一つの思考実験、電車の混雑について、浮世絵の曲線、二十四年前、伊吹山の句について、池、路傍の草、備忘録、日本楽器の名称、Liber Studiorum、時事雑感。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 207,099 字 · 419 页
曲がどういう曲であったかそれも覚えていない。ただ覚えているのは、ケーベルさんが一曲の演奏を終わって、静かに横にからだを向けて、椅子に腰かけたままじっと耳をすまして楽器と天井の間に往復する音波の反響に聞き入っていた瞬間の姿である。聴衆は待ち兼ねていたように拍手をした。ケーベルさんが立ち上がるのも待たないで無遠慮に拍手を浴びせかけた。ケーベルさんは少しはにかんだような色を柔和な顔に浮かべて聴衆に挨拶した。
演奏していた時の様子も思い出す。少し背中を猫背に曲げて、時々仰向いたり、軽くからだを前後に動かしたりしているのがいかにも自由な心持ちでそして三昧にはいっているようなふうに見えた。他の多くの演奏者と対比した時にいっそう何かしら全くちがったいい感じがした。
まっ黒なピアノに対して童顔金髪の色彩の感じも非常に上品であったが、しかしそれよりもこの人の内側から放射する何物かがひどく私を動かした。
平たく言えば私はその時から全くケーベルさんが好きになったのであった。もっともその前からその人がらについて充分な予備知識はもっていたのであるが、一度会って話がしてみたかった。