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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

それに、こう云う真っ暗な土砂降りの晩に訪れたら、いかに鬼のような心を持った女でも、哀れを催さない筈はあるまい。そう思うと彼はひとりでにそわ/\して来て、ふら/\と鬼門の方角へ出かけて行った。

「まあ、誰方かと存じましたら、―――」

呼び出された女童は、雨の降り込む簀子の板敷にしょんぼり立っている男の姿を闇に透かしながら、さも驚いたらしく云った。

「暫くでございましたわね、おあきらめになったのかと存じておりましたのよ」

「いや、あきらめてよいものかね。男はあゝ云う目に遭わされると、猶更恋しさが募るものだ。あれからお伺いしなかったのは、そう/\うるさく附き纏うのも失礼だと思ったからだよ」

平中は、餘り醜態にならないように冷静を装ったつもりであったが、生憎自分でも可笑しいくらい声がふるえているのであった。

「御無沙汰はしていたけれども、一日だって忘れたことなんぞありはしない。一途に思いつゞけていたのだ」

「お文をお持ちになりましたの」

女童は長たらしい泣きごとには取り合わないで、手紙があるなら取次だけはして上げようと云う調子であった。

「文なんか持って来なかったよ。どうせ御返事が戴けないのに、書いたって無駄ではないか。