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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
その二
そして結局、又あの女童を呼び出しに行っては文をことづけるより外に、此れと云う智慧も浮かばないのであったが、でもその文の書き方には心を砕いて、此の間の夜の己れの越度を詫びる言葉を、さま/″\な表現で繰り返し/\綴るようにした。―――あなたが私を試そうとしていらっしゃることは感づいていたのですが、それでいながらうっかりして、あの晩のような失錯をしてしまったくやしさ。それと云うのもあなたを思う熱情が足りない證拠だと仰せになるかも知れませんが、去年以来どんなにあなたに嘲弄されてもなお懲りずまに通って来る私と云うものに、少しでも不憫をかけて下さるのであったら、せめてもう一度だけ、此の間の晩のような機会を恵んで下さらないであろうか。―――と、要旨はそれに盡きるのであるが、それをいろ/\な殺し文句で書くのであった。
その二
そうこうするうち、その年の夏も過ぎ、秋も暮れて、平中の家の籬に咲いた菊の花も色香がうつろう季節になった。
此の古今に名を馳せた色好みの男は、人間の花を愛したばかりでなく、植物の花をもいつくしむ心を持っていて、わけても菊を栽培することが相当上手であったらしい。