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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

………

自分は昨夜、左大臣のあのしつッこい所作を見ているうちに、平素胸中にわだかまっていたそう云ういろ/\なもや/\が、酔いが発するのと共に次第に湧き上って来るのを覚えた。いったい此の人が、そんなにも自分の妻に気があるのだろうか。もしそうならば、自分が日頃夢見ていたことが、或は実現されるかも知れない。自分が本気で、その計畫を実行に移すつもりなら、今こそ無二の機会であり、此の人こそその資格のある人物である。官位、才能、容貌、年齢、あらゆる点から云って、此の人こそ、自分の妻にふさわしい相手である。此の人ならば、ほんとうにあの人を幸福にしてやることが出来るのである、と、自分はそう思ったのであった。

自分の心にそう云う考が萌していたところへ、左大臣があんな工合に積極的に出て来たので、自分は一も二もなかった。自分の念願と左大臣の念願とが図らず合致したことに、自分はひどく感激した。一つには左大臣の恩に報い、一つにはいとしい人への罪のつぐないが出来ると思うと、自分は有頂天になった。そして咄嗟にあゝ云う行動に出てしまった。………あの瞬間にも、お前はそんなことをしてよいのか、いくら恩返しをすると云っても、餘り寛大過ぎはしないか、………酔った勢で飛んだことをして、覚めてから地団太蹈むのではないか、………お前が愛する人のために献身