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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

母が出てくると彼は二、三枚の罫紙に書いたものを渡した。それをうけとったまま母は縁端へ坐ってしまったのだ。そのときの彼女の顔についてどうしてわたしに説明することが出来よう。彼女はこみ上げるように咽喉元を顫わせたまま、物を言うことも出来ず、唇を噛みしめているばかりであった。わたしにはそのまま彼女が昏倒してしまうのではないかと思われた程であった。

「お気の毒です」

と、その男が言った。

「あなたの息子さんもとんでもないことをなされましたな、犯罪は明治四十二年頃から始まっていますからね。――」

だが、彼は急に寂しそうに笑いながら、

「まったくお気の毒です。こんなことをなさらなくっても済んだでしょうにね。しかし、仕方がありません。今夜のうちに片づけてしまいますから」

と言った。それから靴をぬいで上ると大きな手提鞄の中から手帳と、束になった封印紙とを取出した。彼の顔にはすっかり義務的な表情が現われ、室の中に雑然とならんでいる道具の一つ一つを丹念に眺めては手帳に書きとめていった。台所が済むと彼はすぐに仏間に入ったが其処には仏壇のほかに何もなかったので、そのまま素通りして奥の間に入っていった。