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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页
風が寒いので冬仕度をして雪渓を上り始める。曇った空が所どころ虫に喰われた木の葉のように孔があいて、霧の中からぽうっと薄日が映して来た。生温るい水蒸気が脚もとから舞い騰るので、大きな風呂場に這入ったような感じがする。左手は前と同じ屏風の続きであるが、岩が見えないのは雪の深い為であろう。右は雑木の繁った緩い斜面で、雪解の跡には草の緑が若若しい。雪渓の勾配はさして急ではなかった。両側の山で駒鳥が盛に鳴く、沈静な谷の空気が諧調の音波を無限に拡げる。それには耳も借さない風情で雪に慣れた南日君は、得意の鼻をいや高くして長い脛を飛ばす。後から見ていると青草を干したような洋服の地色が妙に霧に溶け合って、黒い脚袢が二本、雪の上をすうすうと歩いているようで、何だか通り魔に憑れたような気がした。雪渓は初めてだという実君は頻りに鳶口の苛責を雪に加えている。五、六町登ると谷が左に折れて、突然豪宕極りなき舞台が行く手に開けた。人より先に登って来た南日君と私とは、杖に凭れて雪の上に立ち停った。息を継ぐ間もあらせず「君、壮だな」と南日君がいう、「壮だな」と鸚鵡返しに答える。南日君はそれでもまだ物足りないか、登って来る実君にまで声を懸けて「壮だな」