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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

手早く荷物を纏めて、この残惜しい野営地を後に雪渓を東に向って下り始める、茫々たる霧は雪と溶け合って、涯りの知れない鼠色の天地は、眼のあたり尺寸の間に限られて、五、六歩の先に立った南日君の姿さえ掻き消すように失せている。雪の上には階段状に足場が刻まれ、其に沿うて十間か十五、六間毎に三尺程の鉄の杭を打ち込み、杭の頭には針の孔のように輪が造られて、夫へ彼の大きな岩から垂れ下げた鋼索が引き通されている。「カンジキを穿いてあの雪の上をザクザク歩いたらどれ程愉快であろう」と、南日君と顔さえ合せれば口癖のように話し合って、親鳥が雛をはぐくむように胸に育てていた其楽みの萌芽も、この一条の鋼索と雪の上に印された無数の足跡とに依って、未だ二葉ならざるにむざと蹂躙られてしまった。然しこの大霧の日にこの大窓の大雪渓を下るということは、私達の萎びかかった増長心に可なりの昂奮と満足とを与えたことは言う迄もない。

不意にものの気配がしてハッと顔を上げる、シットリした重い霧の垂幕の中から、鉱石入りの小さな叺を背負って腕組みをしながら登って来る人夫の姿が朧ろげに現れる、もう鼻と鼻とが擦れ合う程に近寄っている、互に挨拶の言葉をいい交わして、一歩下りさま振り返った時には、二人は既に永劫に隔てられていた。