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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

木暮理太郎『山の憶い出 上』。同一底本的分册已合并为一书。收入:笛吹川の上流(東沢と西沢)、奥秩父の山旅日記、釜沢行、秩父の奥山、利根川水源地の山々、秋の鬼怒沼 、美ヶ原、木曽駒と甲斐駒、黒部川奥の山旅、黒部川を遡る 、針木峠の林道 、春の大方山、三国山と苗場山、八ヶ峰の断裂 。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 页

青空文庫

夕暮の濃いつめたい空気を透して、遠くから其姿を眺めると、とても暖かい血の循っている人間とは想えない。まるで銅像か何ぞのように堅くこちこちしている。寧ろ寒さ其物が結晶して権りに人間らしい姿をして、不図此原に迷い出したのではなかろうか。其胴体から放散する凜冽の気は、触るる所の何物をも凍らせずには置かないような気がする。太い丸太ン棒のような物で背をガンと打ちのめしたなら、破れ鐘のような音をして前の竜バミ谷へけし飛んで行くに相違あるまい。

谷間からも木蔭からもそろそろと匍い出した闇は、この打ち開けた原を取り巻いて、最初は地の上を匍うているに過ぎなかったが、次第に上の方にのし上って、何時の間にかつと抱き合うと、大きな翼の下に原を押覆せてしまった。満天の星は美しい光を投げて、静かな心地よい夜が来た。時々霜の飛ぶのがチラと眼を射る。

焚火を前にして三人は温かい晩飯を終った。火が明るくなったり暗くなったりする度に、ぽうっと映し出された森の木の間で、闇が大きな吐息をついている。其奥の方で井戸沢の清い流れが或時は銀の糸のように細く幽かに、或時は瑠璃盤上を走る玉のように滑かに快よく、節面白い自然の音楽を奏でている。