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やまのかみさつじん

山の神殺人

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,014 字 · 21 页

青空文庫

隣りの県の人間だ。この手紙が現れなければ、事件は永遠に解決されなかったであろう。

手紙はヒサからのもので、日光で待っているから来てほしい。迎えの人を馬返しにだしておくから、その人の案内通りに安心してついてきて欲しい。日光の山中でつもる話をして縁を結びたい、という味なことが書いてあった。

「すると、情痴の殺人か。それにしては、わざわざ首を斬り落すほどテイネイなことをしながら、懐中を改めないとはマヌケの犯人がいるものだ。常識では考えられないようなマヌケだね」

ところが日光からのレンラクで、小野刑事がヒサを取り押え、取り調べてみると、ヒサは当日他の場所にいたことが、多くの人々の証言もあってハッキリ分ったのである。

ヒサはそんな手紙は書いた覚えがないと云った。

「チョイト、旦那。この手紙は男の手だわね。女の手に似せるために、わざとヘナチョコに曲げて書いたのよ。私はね。カツギ屋渡世はしてますけどさ。これで書は小学校の時から然るべき先生について、書道の奥儀をきわめているんですからね。スズリと筆をかしてごらんな。水茎の跡を見せてあげるから」

書かせてみると、なるほど達筆、どこの姫君が書いたかと思うような能筆である。