轻松读懂日语经典作品
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にじ
彩虹
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页
城を下って大手へ出ると、沛然とした雨が来た。伊兵衛はその雨のなかを、まっすぐに海岸のほうへ歩いていった。昂奮している頬を雨の打つこころよさに、彼はなんども空を仰いでは大きく呼吸した。……桃園へゆくと、待兼ねていたさえが迎えて、彼の濡れ鼠になった姿を見ておどろきの声をあげた、なにか事があったと思ったらしい。
「まあどうなさいました」
「いやなんでもない濡れただけだ」
伊兵衛は手で制しながら脇へまわった。
「……なにか着替えを貸して貰おう」
「はい、でもそのままではお気持が悪うございましょう、お召物をお出し申しますから、ちょっと風呂へおはいりあそばせ」
「そうしようかな」
伊兵衛は縁先でくるくると裸になった。風呂を浴びて、着替えをすると、さえは海の見える離室へと彼を案内した。……雨はいつのまにかあがって、午後の日ざしが明るく、座敷いっぱいにさし込んで来た。伊兵衛は窓の側へ座を占め、しずかにさえを近くに招いた。
「脇田のほうは切をつけて来た、改めておれから訊くが、さえ……樫村へ嫁に来ないか」
「はい」
さえは思いがけないほどすなおにうなずき、光をたたえた、美しいしおのある眼で伊兵衛を見あげた。