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にじ
彩虹
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,898 字 · 28 页
五
伊兵衛が立つと、さえは後ろへまわって着物を肩にかけ、丈を当ってみて、
「はい有難うございました」
とそこへ坐った。そのまま針を持って、しずかに縫い続けるさえの姿を、伊兵衛は暫らくぼんやりと見まもっていた。
「先日の話は考えてみたか」
「…………」
さえは眼をあげた、それはこちらの心を覗きでもするような眼つきだった、それからそっと微笑しながらうなずいた。
「……はい」
「それで返辞は、どうなんだ」
「わたくしの一存では、本当にどう申上げようもございませんわ、だって本当にわからないのですもの」
「それでは返辞になっていないよ」
「もし頼さまが」
と、さえはまた彼の幼な名を呼んだ。
「……もしも頼さまが嫁げと仰しゃるんでしたら、……」
「おれの気持はこのあいだ話した筈だ」
「あのときは勧めて下さいましたわ」
「しかしおれの気持はさえの気持じゃない、脇田の知りたいのもさえ自身の気持だろう、問題はおまえの一生なんだ、他人の意見に縋るような弱いことでどうするか」
「ではお返辞を致しますわ」
さえは暫らくしてそう答えた。
「……わたくし、お受け申します」
五
その年の夏は十何年ぶりという暑さで、梅雨明けから二百十日すぎまで一粒の雨もなく照り続けた。