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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

「じゃ宮本さんのいた会社に問合せても無駄でしょうかね?」

「人事課でも最早分らないかも知れません。何しろ姓が幾度も変っておるのでしょうし、それにあの会社とは今は何の関係もございませんでしょうから――。それよりは、むしろ久子さんに直接あたって訊いてみた方がかえって何かの糸口がつかめるかも知れませんわ。あんなに仲のよかった兄妹なんですから、お兄さんのことは何でも知っていましょうと思いますが」

夫人は前々から宮本夫人には興味を有っていた。勿論本人を知っているのではないが、想像力の強い人だけに、世間の噂さだの、私から聞いた話だのを集めて、一人の宮本夫人を造り上げていた。しかしこの事件に何も関係のない、彼女を引きずり出して来る夫人の気持はどうも分らなかった。たぶん彼女を突ついたら、何かしら手ぐり出す方法があるかも知れないという位の考えなのだろうが、今頃こんな人を、ほじくり出した処で、どうせ何も出やしないと思ったので、私は余り気乗りがしなかった。しかし夫人の案内役として久子さんを訪問することは拒めなかった。

久子さんは一度嫁いだが、不縁になって戻って来てから、小田切さんの留守宅を預って、番町の屋敷に伯母さんと二人で暮らしているのだった。