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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

あなたのような人間を殺すだけの情も、最早私は持ち合せてないんですよ、死にたかったら御自分で勝手にお死になさい――』

ピストルを拾って小田切さんに突きつけました。――そのピストルであの人は遂々死んでしまったんでございます」

宮本夫人は云い終ると骨壺を抱きしめて、懐かしそうに頬ずりしなから、私達の手にそれを返した、そして更に附け加えていうのだった。

「あんなに喧嘩ばかりしていましたが、やはり私は小田切さんを愛しています。あの人も私を憎めなかったんでしょう。二人は真実に愛し合っている癖に、始終諍いばかりしていました。が、さてあの人はもうこの世にいないと思うと、この先どうして生きて行っていいか分らなくなります。口惜しさも腹立たしさも皆消えてしまって、残っているのはただ深く彼を愛しているという心だけですの、せめてお遺骨のお傍にでもいなくては寂しくて一刻も生きていられなかったものですから、実は告別式のすんだ晩、遺族の方達が皆疲れてしばらく休んでいられた間に、私はそっとお遺骨をすりかえておいたのでございます。が、どうにも不安でならなかったものですから、納骨堂にあるお遺骨を異物と思わせようと苦心した結果、あなたにお目にかかったあの暴風雨の日などは、女優をしている従妹に涙を流す役をつとめさせたりしたのです。