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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
それは見透しのつかぬほど複雑になり難解になっている。それが言葉によって現わされる為めには、勢い周到な表現を必要とする。詩は昔の人の為めにだ。そして小説と戯曲とは今の人の為めにだ、と。
私はそうは思わない。表現さるべき最後のものは昔も今も異ることがないのだ。縦令外面的な生活が複雑になろうとも、言葉の持つ意味の長い伝統によって蕪雑になっていようとも、一人の詩人の徹視はよく乱れた糸のような生活の混乱をうち貫き、言葉をその純粋な形に立ち帰らせ、その手によって書き下された十行の詩はよく、生の統流を眼前に展くに足るべきである。然しそれをなし得るためには、詩人は必ず深い愛の体験者でなければならぬ。出でよ詩人よ。そして私達が直下に愛と相対し得べき一路を開け。
私は又詩にも勝った表現の楔子を音楽に於て見出そうとするものだ。かの単独にしては何等の意味もなき音声、それを組合せてその中に愛を宿らせる仕事はいかに楽しくも快いことであろうぞ。それは人間の愛をまじり気なく表現し得る楽園といわなければならない。ハアモニーとメロディーとは真に智的生活の何事にも役立たないであろう。