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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
八
本当をいうと不純な誠実というものはない。又量定さるべき誠実というものはない。誠実がある。そこには純粋と凡てとがあるのだ。だからお前は誠実を見出したところに勇み立つがいい、恐れることはない。
起て。そこにお前の眼の前には新たな視野が開けるだろう。それをお前は私に代って言い現わすがいい。
お前は私にこの長い言葉を無駄に云わせてはならない。私は暖かい手を拡げて、お前の来るのを待っているぞよ。
私の個性は私にかく告げてしずかに口をつぐんだ。
八
私の個性は少しばかりではあるが、私に誠実を許してくれた。然し誠実とはそんなものでいいのだろうか。私は八方摸索の結果、すがり附くべき一茎の藁をも見出し得ないで、已むことなく覚束ない私の個性――それは私自身にすら他の人のそれに比して、少しも優れたところのない――に最後の隠家を求めたに過ぎない。それを誠実といっていいのだろうか。けれども名前はどうでもいい。或る人は私の最後の到達を私の卑屈がさせた業だというだろう。或る人は又私の勇気がさせた業だというかも知れない。ただ私自身にいわせるなら、それは必至な或る力が私をそこまで連れて来たという外はない。