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おろかないちにち
愚かな一日
豊島 与志雄
「太陽」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页
自分に何かと力をつけてくれたり、自分の身体を心配してくれたりする彼の友情は、美しい深いものに違いない。然るにそれを初め感謝していた自分の心は、なぜこの頃一種の反撥を感ずるようになったのか。学生時代の友情は一種の特権を与えるが、友情が特権を与えなくなる時もやがて来るのか。
其処まで考えてきて彼は淋しくなった。自分自身が淋しくなった。そして眼を閉じた。
「まだ眠いのかい。」
そういう声がしたので眼を開くと、瀬川が彼の方を覗き込んでいた。彼は苦笑しながら答えた。
「うむ。今日はどうしたのか妙に眠い。」
「ではゆっくりお眠りなすったらどう?」と妻が云った。「その間瀬川さんには海の方でも散歩して来て頂いたら……。私は晩の仕度を整えておきますから。」
「それがいい。」と彼は云った。「今晩は何か少し御馳走をおしよ。瀬川君、失礼だが僕は少し眠るから、海の方でも歩いて来ない? 晩秋の海っていいもんだよ。」
「僕もそう思ってた所だ。では夕方また此処で、三人落ち会うとするかね。……此の次は君も一緒に散歩出来るといいね。」
瀬川が海の方へ出て行くと、彼は横に寝返りをして、襖の紙の枇杷色をじっと眺めていた。