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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
バラック仕立ての貧乏暮らしが身についてから、もう六年になり、見かけより充実した内容で、毎日、楽しくやっていた。ここまでくれば、もう下りようはないだろうという安心から、こういうのどかな生活が、死ぬまでつづくような暢気な気持になっていたのである。
うちの石田氏は、九万吉という名が証明するように、懐手で数表やグラフをながめ、大量観察による推理統計で、大局から物事を判断するといった能力をもっていない。何事も、計算尺と鉛筆をつかってコツコツやらなければ気がすまず、ネクタイの結び目がちょっと歪んでいても、それが気になって、汗をかくといったぐあいだったが、この楽園に住むようになってからは、自他にたいして、寛大な態度をとるようになり、細紐一本の長女さまが、縁側にすえた七輪を桃尻になってあおいでいるのを、古褞袍の重ね着で、踵の皮をむしりながら、平気でながめていられるところまで進歩した。
最近の一年は、それがひどく内攻して、一生の進退を決する高級官吏試験さえ、いっこうにおどろかず、地下鉄銀座の入口で、『官吏試験集』というあやしげな虎の巻を買ってきて、居睡りをしながら読んでいたが、はたして見事に落第した。