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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

どんなひどいところを見られても、

「麻布の家が接収されたもんで……いや、どうも」と額をおさえると、

「まったく、ひどい目におあいでした」と、みな同情してくれる。

どういう因縁でか、月々、百ドルという『アメリカの家賃』をもらいながら、物価の安い、渋谷の奥の三間きりのバラックに住み、『男、褌に、女、二布』という歌の文句のとおり、一日中、細紐一本でいて、体面をつくろうことのいらぬ庶民生活の気安さを、心いくまで執りいれていたのだった。

玄関の土間にトランクや木箱を山のように積みあげ、新聞と郵便物のほか、誰もすりぬけられないような厳重なバリケートをこしらえて、不時の闖入者にそなえ、茶の間といっている六畳に、一日中、チャブ台を出しっぱなしにしてある。食器も、茶器も、みな身近なところにあって、家常の一切が、居なりで用の足りる簡便さといったらなかった。肥りすぎて、もの憂くなっているうちの賢夫人などは、

「これにかぎるわね」

と眼を細くしてよろこんでいた。

怠けものの楽園などと、兄の五十雄君は悪口をいうが、そういうところを見ていると、無為の生活の中で、人間がだんだん物臭くなって行く経過がわかり、それはそれなりに、味のあることであった。