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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
爪に塗ったエナメルを剥がしたくないひとのために、よごれた皿が、自動的に蒸気洗浄されたうえ、ひとりでに乾いてしまうので、あとは、口で銜えてでも、かんたんに皿棚へかえせるようになっている。
そのとなりが電気タワシのついた流し台で、厨芥や汚物は、電気の装置が自動的に外へ持ちだしてしまうので、中気で手にふるえのきているひとでも、めったにしくじるということはない。
そこで直角にまがって、問題のテレビ付電気レンジというのがすわっている。
鳥目のひとが、電源に指先を触れ、熱ッと、はねまわらずにすむように、つい鼻先に昼光ランプがつき、手をつかうことも、口をつかうこともできない小児麻痺患者のために、時計仕掛で、自動的にテンピの蓋があくようになっている。レンジの上には、いつも排気用の電気扇が廻っているので、鮫や、飛魚や、秋刀魚や、悪臭をたてる下等な魚を煮焼きしても、近所隣家に気どられずにすむ便宜がある。
わが石田家には、鳥目も小児麻痺もいないから、昼光ランプも、時計仕掛けの開閉装置も、たいした実益はなさそうだが、渋谷のバラックでは、鮫を焼くたびに、一人がそばにいて、おしっこに似たアンモニア臭を渋団扇で追いちらす役をし、気のひける思いばかりしていたので、排気用の電気扇だけは、非常に印象が強かった。