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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
あんな大屋台を背負いこんで、税金を払うために、いまよりひどい暮らしをするなんて、バカげたことがあるでしょうか」
石田氏は胸もとから手先だけだし、豊かとはいいにくい、薄手な口髭を撫でていたが、
「そんなに厄介なら、火をつけて焼いてしまえばいい。それ以外に、手はなかろう」
虚無的なことをいって、会議を荒しにかかると、五十雄君が、
「ちょっと、言わしてもらって、いいですか」
と、つづきの六畳から仲裁に入った。
特攻隊に入る前は、赤くなったり黒くなったり、思想の色目を変えるのにいそがしく、頭脳の発達は、高校の一年生ぐらいのところでとまったが、ベッドにしばりつけられて、天井ばかりながめて暮らしているうちに、すき透るように眼のなかが澄んできて、どこかの聖人みたいな神々しい顔つきになった。めったにものを言わないが、なにかもめごとがあると、単純だが落ち着いた、道徳的な意見をのべる。千々子さまだけは例外だが、石田一家の倫理の規範は、ほとんどすべての場合、ジェラルミンのバックボーンを背負ったわが家の『良心』によって支配される。この楽園において、五十雄君の声は、あたかも神の声に近いものになっているのである