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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

二

「女のひとが、腰湯をつかう器械……洗滌器だ」と吐きだすようにいった。

いっしょに家の中を見てまわるはずだった調達局のひとは、いつまでたってもやって来ない。石田氏は、言いたいことが腹に溜まりたまっているふうで、煙草を喫いながらジリジリしているところへ、馴鹿の黒いハンド・バッグを抱えた、二十四五の女のひとが入ってきた。黒い裾長のスカートを着て、ネットのついた、黒いフェルトの帽子をかぶっている。

石田氏は、調達局の通訳かなにかが、迎いに来たのだと思ったらしく、

「調査班の方ですか。私は石田です」

といいながら、ソファから立ちあがると、女のひとはヘドモドして、

「いえ、あたしはちがうんです」

と逃げるように部屋から出て行った。

二

台所見物に行った賢夫人と千々子さまが、電気レンジがどうの、オーヴンがどうのといいながら上段ノ間へ帰ってくると、そのあとから、画板付きの大きなスクリプトを、紐で首から吊るした、さっきの調査班の若いひとが入ってきた。

「お待たせいたしました……ご一覧になりましたら、ごいっしょに、玄関から順に、ひと部屋ずつまわって見ましょう。日本家屋のほうは、だいぶ改変があったようですから、引き合わせをするだけでも、相当、時間がかかりましょう……特に、これはひどい、というようなところが、ございましたか?」