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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
北原白秋「婦人公論 第四十三巻第一号」1958(昭和33)年1月号<br>高村光太郎「婦人公論 第四十三巻第二号」1958(昭和33)年2月号<br>萩原朔太郎「婦人公論 第四十三巻第三号」1958(昭和33)年3月号<br>釈迢空「婦人公論 第四十三巻第四号」1958(昭和33)年4月号<br>堀辰雄「婦人公論 第四十三巻第七号」1958(昭和33)年7月号<br>立原道造「婦人公論 第四十三巻第八号」1958(昭和33)年8月号<br>津村信夫「婦人公論 第四十三巻第九号」1958(昭和33)年9月号<br>山村暮鳥「婦人公論 第四十三巻第十一号」1958(昭和33)年10月号<br>百田宗治「婦人公論 第四十三巻第十二号」1958(昭和33)年11月号<br>千家元麿「婦人公論 第四十三巻第十三号」1958(昭和33)年12月号<br>島崎藤村「婦人公論 第四十三巻第六号」1958(昭和33)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 页
の著者であり文学博士である上田敏は指環のはまった繊細な手で、ようかんをつまんで無名の私にすすめ、私は文学博士ともあろう人がえらい親切をするものだと感銘した。その上田敏は『朱欒』の私の詩を読んだといってくれ、意外な光栄を感じた。帰りの梯子段でお下げの令嬢をちらと見たが、それだけでも上田敏訪問は私には幸福だった。えらい人を訪ねたのはこれが初めてであった。
白秋はよく引っ越す人である。私なぞにその都度転居通知なぞが来るはずはない、彼の引越し先につぎつぎと現われ、一年に二、三度は訪ねた。部屋は何時でもきちんとかたづき、机の上には原稿紙でない上質の洋紙が重ねられ、それに詩の下書きがほどこされて、さらにそれを原稿に書きなおしていたのかも分らぬ。冗談もいわなければ砕けた話もしない、それで大家振っている気障なところはなく、手元に引き寄せられて話は熱心にするが、それ以上に女の話などするとか、私自身の生活を聴き取ってくれるとか、そういう一さいのうるさい話はしなかった。詩の話、雑誌の話、木下杢太郎の話、吉井勇の話、そんなふうなことで話はすぐ絶えてしまって、私はきゅうくつになり、長居はしないで何時も早々に退去した。