轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
栄三郎は微笑した。それは心の動揺を隠すためのようで、そのあとからたちまち顔が赤くなった。孝之介は振返ってそれを見た。大きな、またたきをしないその眼は、こちらの心のなかまで見透すようであった。栄三郎はなにか云い返そうとしたが、角屋の迷惑になると思って、じっと怒りを抑えていた。
「描きあがる頃にまた拝見しよう」孝之介はそう云って立った、「いやそのまま、送らなくともいい」
刀を右手に持って、孝之介はゆっくりと出ていった。
栄三郎は坐ったまま、ぎらぎらするような眼で下絵をにらんだ。それは襖絵の下図であった。縦三尺に横十二尺の大きさで、枯れたくぬぎ林と野川の景色が水墨で描いてある。くぬぎ林の中には枯れた薄にまじって若い杉の木が五本あり、土橋を架けた野川の畔には、実をつけた茨の茂みがあって、その枝から一羽の鶫が飛び立とうとしている。そうして、林をぬけ土橋を渡り、枯野のかなたへと延びている一と筋の小径が、(その風景ぜんたいに)森閑とした冬の侘しさと静けさの効果を与えているようであった。
「肝心なものが、ねえって」と栄三郎は呟いた、「――竜の眼、点ずべき睛がねえって」