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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
そうして、私もそれを否定いたしませぬけれども、しかし、ただ私が自身のパトロンが欲しいのなら、失礼ながら、特にあなたを選んでお願い申しませぬ。他にたくさん、私を可愛がって下さる老人のお金持などあるような気がします。げんにこないだも、妙な縁談みたいなものがあったのです。そのお方のお名前は、あなたもご存じかも知れませんが、六十すぎた独身のおじいさんで、芸術院とかの会員だとか何だとか、そういう大師匠のひとが、私をもらいにこの山荘にやって来ました。この師匠さんは、私どもの西片町のお家の近所に住んでいましたので、私たちも隣組のよしみで、時たま逢う事がありました。いつか、あれは秋の夕暮だったと覚えていますが、私とお母さまと二人で、自動車でその師匠さんのお家の前を通り過ぎた時、そのお方がおひとりでぼんやりお宅の門の傍に立っていらして、お母さまが自動車の窓からちょっと師匠さんにお会釈なさったら、その師匠さんの気むずかしそうな蒼黒いお顔が、ぱっと紅葉よりも赤くなりました。
「こいかしら」
私は、はしゃいで言いました。
「お母さまを、すきなのね」
けれども、お母さまは落ちついて、