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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

これは、ひとりわが身たちへ給うたものではない。さきに勝入と共に、あえなく散った家中の士の女房たちへも下された――ねんごろなお文であるぞや。……そのつもりで、みな聞きなされ」

と、告げた。

泣きくれている老母や妻に代って、大勢の男女をまえに、於通がそれを読んで聞かせた。

於通は、菩提山の松琴尼の手許で、源氏の素読を習っていた頃のような調子で、それを読んだ。

かの女が読むと、かの女の感情が、文を生かして、わずかな辞句にも、深味が加えられ、聞く者みな、涙をながした。

良人をなくし、子を死なせた、家中の者の遺族のうちでは、声をあげて、泣くのもあった。

いや、正使として来た、浅野弥兵衛までが、もらい泣きして、懐紙に顔をつつんだ。

無事、慰問も終ったので、使者たちは、あくる日の早朝、大垣を立った。

すると。

大垣城を出たときから、見えかくれに、使者の一行について行く者があった。

たれも気がつかなかった。

しかし、於通は、すぐ気がついていた。

(三蔵らしい……)と。

けれど、そ知らぬ顔して、かの女は、駒にゆられていた。

五月にちかい野の道を、馬でゆく旅は戦争を忘れさせる。