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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
その灯影遠くに、そっと、ふすまを開ける音がした。石川伯耆守数正は、主人と同じように、はや平服にもどり、そこへぬかずいていた。
家中の将士のほとんどがまだ武装を解いてはいない。にもかかわらず数正は、今朝から家康が平服になったのを見ると、すぐ自分も日頃の小袖と麻がみしもに、着かえてしまった。
(なんと、数正の身なりはよ。具足を着こむときは遅いが、脱ぐのは早い)
すぐ眼にカドを立てて、かれの表面だけでなく、内部の心理までを読もうとする視線が露骨に向けられた。
どういうものか、伯耆守数正のすることといえば、同じ家中でありながら、人々はみな、ありのままには受け取らないのだ。前を示せば裏を――底を見せればまたその底に、二重底でもあるような人物としか取ってくれない。
(……心外なことではある)
近ごろめっきり数正の顔には深い皺がきざまれていた。皮膚のいろにも生彩がなく、笑いを忘れていることが久しい。
「おお、数正か。そこでは遠い。寄ってくれい。もそっと、近くへ」
いつも変らないのはこの主君だけであった。数正は、家康の前へ出ると、かえって、気がほぐれた。
「伯耆」
「はい」