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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
そもそもの自分にたいする家中の誤解は、自分と秀吉との接近に始まっている。
去年、秀吉の柳ヶ瀬戦捷のとき、家康から秀吉への賀の使者として、初花の茶入れをたずさえ、石川数正がえらばれて大坂へ行った。
そのとき秀吉のよろこびかたは一通りでなかった。初花の茶入れを披露すべく、まだ工事中の大坂新城の一茶室に、諸侯を招いて、茶会をひらき、徳川どのから祝いに贈ってくれた物と、その自慢もたいへんなものだった。使者の数正も、気に入られ、もう一日おれ、もう一日と、予定の滞在もつい延び延びになり、帰路には、おびただしい土産物を、主家へも、数正個人へも、荷駄が列になるほど、持たせて帰した。
その後も。
何か、徳川家との交渉があると、かならず秀吉は数正の消息をたずね、また、徳川家と親交のある諸侯へも、よく数正のうわさをした。
(伯耆守は、いたく羽柴どのの、お気に入りらしい)
いつか、こういう先入観が、三河武将のあたまに深く根ざしていた。
小牧対陣中、また丹羽長秀の調停運動の前後など、何が起っても、すぐ味方の衆目が、味方の数正のうごきを嗅ぎ探った。――武人の剛毅とよくいうが、武人の猜疑と小心もまたうるさいものだ。