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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

病人には薬を。子どもらには菓子を。また、大釜を運ばせて粥を炊き、

「お城には、限りある糧しかないゆえ、皆して、命のつなぎだけを、分け合ってたもれ。たとえ、どうなろうと、そなたたちに、かかわりはない戦。怪我せぬように、辛抱していたがよいぞえ。怖がることは何もない」

と、励まし、慰めながら、自身でそれらの世話までしてやるのだった。

助右衛門は、遠くから見て、うれしかった。そして何か、覚悟の上に、もう一つ満足なる心の帰結を固められていた。

「殿っ。……まだ、烽火が揚りませぬ。もはや、金沢表への聯絡は、全く望みも絶えたようです」

そこへ登って来た大西金右衛門は、かれの前に膝を折ると、崩れるようにそういった。

この老臣は、城の防禦よりは、のろしの揚る遠い空ばかり、気にしていたのだ。

――と、いうのは。

佐々軍の来襲と同時に、城内から次々に、四回も、金沢表へこの急を知らせる――いわゆる敵中突破の決死的な伝令を出しているからだった。

第一の使いは、捕まった。第二の使いも、敵に見つかり、第三の使いも、失敗に帰した。

そして、今暁、

「これが、最後」

と思って出した兵も、待てど待てど、梨のつぶてだった。