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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

その夜――

この主殿助の所へ、寄手の隠密の者が、一通の密書をもって、忍んで来た。

「何ぶんの御返答を」

と、いうのである。

披いて見ると、佐々成政の物頭――野々村主水の名がある。主水とは、旧知の仲だ。はて何事かと、燭をかきたてて読み下すと。

(――君との旧縁を思うと、今明、おたがいの立場は、運命とはいいながら、惨として、心の傷みを禁じ得ない)

と、まず久闊の情を叙べ、

(しかし、深く考えて見れば、一時の勢いと名聞にこだわって、憎み得ない同士が、屍を積み、城を焼き、以って、一生の事終れりとなすなどは、実に愚である。……ひとつ君から城主の奥村殿にも、説いてみる気はないか。助右衛門どの御夫妻も、まだお若い身そら、好んで、知れきった死の道をえらぶのでもあるまい。――殊に、御自身はともかく、いと幼いお子たちや御母堂もあるとのこと。そして、幾百の部下をも、敢えなく死なさせるような無分別なお人とも思われない)

と、理非を述べ、さらに、次には、利を以って、こういう条件をつけ加えてあった。

(もし、助右衛門殿が、佐々どのへ、城をひらいて、お扱いをまかさるるならば、能州二郡の領主に封じ、黄金一千両を進上しようと、成政様も申しておられる。