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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
と、かれの名が、大坂表にまで、聞えわたったことである。これは、利家にとり、助右衛門の妻にとっても、どんなに、大きなよろこびだったか知れまい。いや、北雪北花幾星霜、加賀衆のお国自慢といえば、かならず助右衛門夫婦の名が語り出されたものだった。
ここに、末森城の危局は、ひとまず、利家にとっては、難なきを得たが――大きく観て――佐々内蔵助成政のうごきは、大きな失敗だったことを蔽い得ない。
無謀の遠征。
確たる自信のない作戦。
要するに、盲動だった。――帰りがけの鳥越城における空巣稼ぎの程度では、その消耗も士気の挫折も埋まるはずもないほどな打撃である。殊に、かれの悶情は、癒ゆべくもなかった。
「さきに、道案内に立った小兵衛を詮議してひっ捕えろ。家は、闕所にし、一族は磔にかけろ」
役人はすぐかれの住居や店を襲ったが、家財、雇人の影もなく、まして小兵衛は、それきり姿も見せないという。
「前田の廻し者に、シテやられたわい。領下の雑人ばらを残らず洗って、臭い者は、片っぱしから取調べろ」
にわかに、成政は、第五列恐怖症にかかった。海陸の通路や城下の旅籠、寺院にいたるまで、旅客の往来に、きびしい制度と、煩雑な手続きを法令化したので、富山を中心とする経済的なうごきは、冬と共に、まったく停止してしまった。