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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

折ふしの大風雪を冒し、人馬も行き暮れるばかりの山また山の難旅行をたどって、ようやく、信州の上諏訪に着き、ただちに使いをもって、

(内蔵助成政、風雪の山路をこえて、ただ今、この地までたどり着いてござる。秋以来の北陸の状況をおつたえ申し、一面、小牧における御戦況やら、将来の方略をおうかがいして、秀吉征伐の大計に、遺漏なきお打ち合わせもいたしおきたく、かたがた、御健勝ぶりをも拝しに参りました。いつ、いずこにて、お会い下さろうか)

と、かれの許へ云い送り、家康の都合を問いあわせた。

「なに。佐々が、北国からやって来たとか?」

家康は、当惑した。

かれはその頃、すでに小牧の軍勢を収め、清洲をひき払い、浜松城に帰って、怏々と、楽しまざる数日をここに過していた時だった。

「ぜひもない。迎えを出せ」

家臣に、手配を命じ、乗り換え馬や、荷駄、案内などの人数をさし向けて、来賓の備えをさせたが、

「さて、困り者の客……」

と、家康は、かれに会って、いうべきことばに、会わぬうちから、苦念していた。

なぜならば。

このとき既に、小牧における秀吉との半歳にわたる対戦は、秀吉の奇手と、信雄の軽率きわまる単独講和によって、万事、終っていたのである。