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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
関白
興亡の転変はすべて、何が、幸か不幸かわからない。
関白
春から秋へかけて、秀吉は文字どおり、南船北馬の征事を果たし、九月、大坂城へ帰府してからは、久しぶりに、内治外政を視――また彼らしき小閑の凡生活にもひたったであろう。
そして、時にはまた、ここまでの山坂を振り返って、自己の半生涯に、
(よくも登って来たものかな)
と、われながら、想いを深めずにいられなかったであろう。
なぜならば、かれも来年は満五十歳になる。五十という人寿の道標は、人生の行路のうちでも、ひどく、
(ああおれも五十か)
と、今さらのように、一応、過去の反省と、これからの歩みとを、考えさせる時期だからである。
そこで、人間である以上、いや人なみはずれて、凡夫の煩悩にも富むかれは、当然、
(四十九も、あと幾月もない秋に来たぞ)
と、暮夜ひそかに、かれの生命が、過去、現在、また将来へ、その凡情をさまざまに想いめぐらしたにちがいない。
人生の長い行路を、山登りにたとえれば、かれの思いは今や、目標の山頂への、七、八合目まで、よじ登ったように、麓を見たであろう。
登山の目標は、山頂ときまっている。しかし、人生のおもしろさ、生命の息吹の楽しさは、その山頂にはなく、却って、逆境の、山の中腹にあるといっていい。