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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

――が、家康は、秀吉の肚を見抜いていた。

(誇れよ、真田。豎子に一時の名を成さしてやろう程に)

家康は、笑って、負けた。――この負けは、その価値の大なること、どんな大勝利にもまさるものであったことは、爾後の月日が、証明した。

この地方事変も、天正十三年の春から九月末までの、約半年にわたる出来事で、秀吉としては、その年の主力的な行動企画の線ではなかったが、家康とすれば、あやうくも自己の“命とり”を招くやも知れなかった危険なる転落の崖ふちだった。

得意は、時みじかく、不遇は長い。

またよく俗にもいう泣きッ面に蜂は――ひとり個々の小さな世帯異変だけではない。

この頃、家康の運命率は、どっちを向いても、まずい事だらけだった。

わが勢力下の一被官と信じていた真田にそむかれ、しかも忍び難い敗退を余儀なくされて、家中の士気も滅入りこんだままの年の冬も十一月の半ばという頃。――またぞろ、家康の肌をそそけ立てるような深刻な事件がかれの内輪から突発した。

冬の風

星一ツない、墨の夜空と、きびしい冬を示している大地。

沈黙の巨人のように、岡崎城の物見櫓が、木枯しの中に、突っ立っている。