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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
冬の風
狭間狭間にも、こよいは、灯影が見えない。二の丸、外曲輪などをつつむ樹林の闇が、吼える空にあわせて、潮のように、ただ揺れ鳴っているだけだった。
十一月十三日の――宵すぎた頃である。
つねに二の丸にいる物頭の初鹿野伝右衛門は、余りに烈風なので、持場を一巡して、何気なく本丸境の小高い芝地に立って、耳もちぎれそうな寒風の中に立って、闇一色のあたりを眺めていると、どこかで、馬のいななきが、ふた声三声きこえた。
「……はて、たれが出て行くのだろう?」
平常、開けることのない隠し門から、だらだら坂を下へ、馬のひづめや、かすかな人声が、ひそやかに、降りて行く。
二人や三人の気配ではない。少なくも二、三十人は続いて行ったかとおもわれる。
伝右衛門はあわてて、本丸との境にある中木戸へ駈けて行った。
「番士。おいっ、番の者」
詰番の小屋をのぞくと、灯もない小屋の中から、当番の士が二人、牛のように、眠たげな顔を出した。
「あ。初鹿野さまですか」
「なんだ、いるのか。どうして燈火をつけんのだ」
「今夜は、風が烈しいから、一切、燈火は用いるなと、夕刻、御城代からのお申しつけでございました」