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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
それはなお軽い。伯耆どのにいたっては――)
と、伝右衛門は、自己の百倍もの辛さを、数正の身におもいやられた。
人も知る、石川伯耆守数正といえば、酒井忠次と並んで、徳川家の今日ある二元老だ。よそから来た羈旅の臣ではない、譜代も譜代、家康がまだ洟みずを垂らしていた幼少から、八歳にして、今川家の質子にとられていた時も、ずっと、側を離れずに来た糟糠の忠臣である。なくてならない柱石でもある。
また、数正の軍功といったら、この三河生えぬきの勇猛はずいぶんあるが、かれに比肩し得る者はない。その点でも、赫々たる武勲第一の棟梁といってよい。
――だのに、その数正の近ごろの憔悴は、はた目に見るもあわれなほど、頬骨たかくやつれていた。しかし家中一般の白眼は、伝右衛門以外、たれもそれを、あわれもののふとは見なかった。
同情はおろか、数正に対する家中一般の眼は、徳川家が、ここ日を追うて、孤立と逆境の苦悶を濃くするにつれて、辛い風当りの度を、加えていた。
「かような、不利な立場を招いたのも、譜代の禄を食みながら、いつのまにか上方へ媚び、陰に陽に、秀吉の利を謀って、主家の武運を売り物にしている厄介なシロ物が、われらの上に、お家の柱石面をしているからじゃ」