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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
数正も去って、ただちに門外に出、馬の背にまたがった。
火の気もなく、今は、人も残さず、烈風の中に、ただの空き家として捨て去る多年の住居に、かれも、感なきを得ない。
憮然として、門を見ていた。
その門から、さいごの三、四人がとび出して、あとを閉め、
「みな様は、はやお先へ行かれました。いざ、お供を」
と、駒の前後について、足を早め出した。
しばらく駈けると、かれは一つの門の前で、急に駒を止めた。
「ここは、初鹿野伝右衛門のやしきだったな」
「は。左様で」
「たれか一名、門を叩いて、伝右の家中へこう伝えい。……御主人伝右どのが、石川伯耆守のやしきにて、お待ちゆえ、駕籠をもって、お迎えにお越しあれ、と」
「かまいませぬか」
不安な顔つきで云ったが、数正の従者は、命ぜらるるまま、その通り、門内に伝えた。
「それっ、急げ」
数正は、とたんに馬に、ムチを加えた。
その夜、鳴海附近の浜から、二艘の舟が、沖へはなれた。
漁村の灯すら見えない大風の晩である。舟はかなり大きいものだったが、さだめし風浪に揉まれ抜いたことだろう。――それは石川数正の将来の運命を暗示しているようでもあるし、また、この波浪と冬の大地の彼方にこそ、やがて彼が晩生を托そうとする生活度の高い平和の世間があるかとも考えられる。