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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

「この、曲者ッ」

と、数人が、おどりかかって、両腕をねじ捕った。

くそッと、投げつけ、投げつけ、長兵衛はその本性を奮い出したが、力つきて、ついに縄にかかってしまった。

「もう暴れはせん。拙者も、滝川長兵衛だ、おいッ、そう恐がって、手荒にするな」

長兵衛は、その腕力を封じられると、こんどは、くそ度胸を面がまえに見せて云った。

「どうだ、ものは相談だが。――実あおれは、叔父の一益と喧嘩して、城から逃げて来たのだが。……上方へでも落ちのびて、気楽な町人で生涯を送ろうとおもい、城中の金子を十枚、肌にかくして持っている。……それを、ここで吐き出して、皆に分けてしまうから、おれを助けてくれまいか。――おぬしたちだッて、金のいらないことはなかろう。戦争は一時、あとあとの暮しは長い一生だぞ」

武者たちは、顔見あわせて、かれの弁舌に、ふと、誘惑をおぼえた様子だったが、組頭かと見える男は、突然、かれの縄目を自分の手に持ち直して、どなりつけた。

「だまれっ、金で戦を取り引きするような者は、徳川家にはおらん。世まい言を申さず、歩けッ歩けッ」

長兵衛を捕えたのは、遊軍石川数正の部下だった。