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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
家庭における男性という者には、どんなに独裁の振舞える位置にいても、一面には、叱られたり、ただハイハイと甘えていられる者も欲しい――という相反した本能がある。
ともあれ、かれは今、男の四十九歳という最盛期の人生に近づき、外には、小牧に天下分け目の大戦を抱えながら、内には、閨門の政治にも、なかなか多忙をきわめていた。よくもこう一個の身で、凡と非凡、大度と細心、大見得とまる裸との、仕分けができるかとおもわれるほど、いわゆる達者な生命力を、日々、飽くことなく生きていた。
「やれやれ、狂言舞も、見てこそ、おかしいが、おのれが舞台で演ってみると、おかしいどころかよ、くるしいものぞ。イヤ、なかなか」
秀吉は、いつのまにか、母堂や寧子夫人のうしろへ来ていた。たった今、見物の喝采をあとに、舞台の上から引っこんだ彼だった。
その、舞台の余熱が、まだどこかに醒めきっていないような調子で、
「――寧子。こよいは、そもじの部屋で、もそっと遊ぼう。たんと、馳走してくれい」
ちょうど、能狂言の終りと共に、あなたこなたは、明々と灯に染まり、招かれた客たちは、三の丸、二の丸へとおもいおもいに散って行った。