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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
折にはちというたがよいと……」
「はははは。それで灸か」
「その御心配もおもわずに、よい気になって、不養生ばかり遊ばすのは、親不孝でございましょうに」
「いつ、わしが不養生を」
「おとといの夜も、三条の局のお部屋で、明け方ちかくまで、何を騒いでおいで遊ばしましたか」
「ア。わかったか」
「わかったかもないものです。――あなた様は」
次の間で酒もりしていた近習や能役者たちは、秀吉夫妻のめずらしい――いや、めずらしくない夫婦喧嘩に――見て見ぬふりをし合っていたが、そのとき秀吉の方から、かえって大声で、こう呼びかけられた。
「これこれ、そこの見物ども。いまの、ふたりの猿楽狂言を、何と見たぞ」
太鼓打の縫殿介が、答えた。
「はいはい。盲の蹴鞠と拝見いたしました」
「犬も喰わぬと申すか」
「いえ、勝負、果てなしで」
「笛吹きの大蔵は、どう見たぞ」
「されば、私は私の商売と、拝見仕りました。そのわけは。――どちらが、理ヤラ、非ヤラ。……リヤラ、ヒヤラ。リヤラ、ヒヤラ……」
「うまい」
と秀吉は、いきなり寧子のかいどりを剥ぎ取って、褒美に、投げてやった。
翌日はもう、同じ城中にいながらも、かれの家族たちは、秀吉の姿さえ、見ることができなかった。