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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

次男三左衛門輝政をそばにおいて、いま土杯の祝い酒を酌みかわし、父子共に、よろい姿を、床几に倚せて、出門の時刻を待っていた。

ところへ、留守をいいつかった老臣の伊木忠次が、

「殿。お門出の間際にはございますが、とんだお忘れものがございましょう。……あの者たちの処置は、いかが致しておきましょうか」

と、たずねに出た。

勝入は、はてと、思い出せぬ面で、

「あの者たちとは……」

と問い返した。

「数日前、木曾川口の木戸で、大坂表から黒田ノ城へ使いに来た帰りの途の者とは承知のうえで、わざと捕えておいた禅坊主と山伏ていの男ですが」

「ア。あれか……」

と、勝入は、おかしげに呟いて――

「そうよな。あのまま牢に忘れておいては事だわえ。過日はまだ、われらの去就も定まらぬうちゆえ、後の推移次第で、利用の道もある人間とおもい、牢へ投げこんでおけいと命じおいたのだが……両三日の忙しさに、つい失念しておった。さっそく放してやらねばなるまい」

「秀吉様へお味方と決した以上は」

「もとよりその当家が、羽柴家から他国へ説客に参った使いの者を、故なく抑留しておくのは辻褄も合わぬ。……が、あの両名、姓は何といったかの」