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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

――吉と出るか、凶と出るか。

さきに黒田ノ城主、沢井左衛門を説かせにやった武藤清左衛門、漸蔵主の二使は、その後、杳として消息がない。密偵は九分九厘までの不成功と知らせてきている。尾張春日井郡の丹羽勘助を抱きこみにやった今井検校もついきのう、恥辱を与えられてむなしく帰ってきたばかりだ。――秀吉は、尾藤甚右からのてがみを、神籤の封を切るような心地でひらいた。

「よしっ」

それしかいわなかった。

「使いを、いたわってやれ」

その夜の深更、彼も眠りについてからのことだ。なに思ったか、ムクと起き、例の声で、宿直をよびたてた。

「甚右の使いは、明朝帰るか」

「いえ、かかる折と申して、ひと休みの後、夜道をかけて美濃へ帰りました」

「はや帰ったか。……では、祐筆をよべ」

「はっ、御祐筆には、どなたを」

「由己がよい」

と、いったが、すぐ思い直し――「いや、料紙、硯をもって来い。祐筆も眠たかろう」

と、思いやった。だが実は、その祐筆が髪をなで衣服を着かえて来るのがもどかしいふうであった。

寝床の上で筆をとり、彼は一書をしたためた。尾藤甚右衛門宛てにである。

――骨折りによって、勝入父子、われへ同心一味の誓約、大祝この上もない。