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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

大坂築城

――見そぼらしき貰い小袖など着るも口惜し、着るならば、戦場にて大差物を指すにも似たる派手やかなる大紋広袖をこそ。――その上、縄詫言はせぬ証拠に、車を寄するとき、人前にて、わざと縄を掛けられよ」

率直、実に愛すべきところがある。彦右衛門は早速、この旨を、また秀吉の所へ、云い送った。

秀吉もまた、それを聞いて、

「最後まで、武辺の心がけ、しおらし」

とて、さっそく玄蕃允が望みどおりな衣裳を届けてよこした。

刑の日が来た。

佐久間玄蕃允は、その朝、湯あみもし、剃刀もあて、青髯のあと涼やかに、髪まで結いあらためて、もみ紅梅の小袖に、大紋の広袖を着、

「縄を」

と、みずから縛めを求めて、車に乗った。

当年、ちょうど三十の美丈夫、誰も、その死を惜しむ姿であった。

車は、京の七条、六条から引廻され、夜に入って、槙島へもどると、野に敷皮をのべ、

「お腹を召されよ」

と、情けの脇差を、扇にすえて差出したが、玄蕃允は笑って、

「斟酌、御無用」

と、縄も解かせず、従容、首を斬らせた。

大坂築城

秀吉を繞る戦後の多忙は、戦前の多端に勝るものがあった。

大坂築城と、それに附随する、五畿経営のことだけでも、容易な事業ではない。